音楽とオーディオの部屋 トップページへ

  300Bシングルアンプの製作記



このアンプは、SG-50シングルステレオアンプ製作のために解体されました。

きっかけ その1: 98年8月 シャーシ、トランス、CRパーツを格安で手に入れた。

まだ、インターネットが充分に発達する前、Nifty Serveのパソコン通信をやっていて、98年8月に「FAV:オーディオとヴィジュアルのフォーラム」の中にあった「売ります、買います」の掲示板で鈴蘭堂SL770(シャーシー)、タンゴFW−20S(シングル用出力トランス)、MC−5−250D(チョークコイル)、MX−205(電源トランス)が、25本の真空管、その他CRパーツと一緒に格安で売りに出されていたのを手に入れることが出来た。放出した方はGE6550のシングルアンプを製作しようとしたが、計画変更されたらしい。シャーシーは新古、トランスは何れも未使用の新品、25本の真空管は、ジーメンスGZ34/5AR4とか、GE6550、6SJ7、松下6CA7など、結構なお宝だった。(この中の4本のGE6550は、後に閑人氏のラックス真空管アンプMQ50の保守用として輿入れする。)



きっかけ その2: 99年8月 300Bが転がり込んできた。

Nifty Serve の「FJAZZ:ジャズフォーラム」にも「音響我楽多(ガラクタ)箱(オーディオ談話室)」という会議室があり、真空管アンプの自作派がたむろしていた。たまたま、使わないで放置しておいたSony CDP557ESDというCDプレーヤーを差し上げますという書き込みをしたところ、かわりに300Bを2本頂けることになって300Bが転がり込んできてしまったのだ。それからが大変、製作途中では、この会議室の常連の真空管アンプ製作のベテラン諸氏から様々なアドバイスを頂きながら、会議室の中で300Bシングルアンプの製作記が始まった。



最初は、なるべく手持ちのパーツを流用し、ごく普通の自己バイアス回路で製作。

以下がその回路。ごく普通のウエスタン91型の回路のものだ。電源部は、もともとチョークのインダクタンスが5Hと少なく、300Bをステレオで使うとなるともう1段π型のフィルターを挿入しないとリップルが充分に除去できないということもあり、+B電源を左右で200Ωの抵抗で振り分けてセパレーションが充分に取れるようにした。200Ωの抵抗による電圧降下などのデメリットもあるが、実際はそれほど問題にはならない。ドライバー段の回路は、98年8月に手に入れたパーツセットをなるべく使えるように定数を選んだ。300Bのカソード抵抗も、手元にあった500Ω10Wと390Ω10Wの抵抗を直列にして890Ωとしてあり合わせのを使用したのだ。整流管は5AR4、ドライバー管の6SJ7もシャシー、トランスと一緒に転がり込んできたものを使用している。0.47uFのフィルムコンデンサも、ごく普通に安価で売られているものだ。


         


このアンプは、一聴して、さわやかで立ち上がりが早い感じで、すっきりでるような音だった。真ん中の帯域が分厚いような感じではなく、低域の量感はほどほどでむしろ案外締まっている。実際には低域もそんなには伸びていない。6SJ7由来の5極管の硬質な感じはあるが、けっしていやな感じではない。弦楽器も聴ける。ただし、歪みのために高域が張ったように感じるアンプであって、実際は、とても20KHzまでフラットな特性では無いはずだから上がスッキリ抜けきるような感じの音ではない。でも、適当に組んだだけでそこそこ魅力的な音が出てしまうのが、300Bの名球たる所以だろうか。

300BはCRの新型のものだが、フィラメントに灯がともると首のあたりにほんのりと青紫の蛍光が出て、部屋を真っ暗にすると綺麗だ。しかし、6SJ7はメタル管なので何も見えない。でも、明るいところで見ればメタル管の6SJ7も、300Bを目立たせる意味でとても似合う。格好だけは良いアンプだ。メタル管は管がシールドも兼ねているので、SNを良くするのにも役立っているかも知れない。

300BのEbは、5AR4使用で380Vと、セルフバイアスで使っても充分な電圧が取れた。ちょっとやっかいだったのが、300Bのヒーター回路のドロップ抵抗だ。0.5Ωのセメント抵抗を選別して使用した。無選別だと4.7V〜5.2Vまでばらついた。

問題は6SJ7のばらつきで、Sgの電圧が球によって変わってしまうため、動作がばらついてしまい気持ちが悪い。とりあえず左右の電圧のばらつきの少ない2本を選別して挿したが、改造後もこのまま前段に6SJ7を使用するのなら、Sg電圧が安定するような工夫が必要だと感じた。



出力段を固定バイアスにし、リファインする。

会議室常連のベテランの一人、N氏が300Bシングルアンプを製作しフォーラムの会議室で発表された。その回路は、私が製作したものとは比較できないくらい練り上げられたもので、 FET−(直結)−6SN7−(CR結合)−6SN7−(カソードフォロア直結)−300B(固定バイアス)で、NFBを深くかけた特性の良いものだった。

カソードフォロア段と−C電源自体をパクらせてもらえばそのまま流用できるので、6SN7の1ユニットのみの真空管、6J5GTを手に入れて、さっそく変更製作にとりかかった。300Bのカソードに入っている1Ωの抵抗はテスターによる電流測定用なので精密級でないと意味がない。6SJ7のSg電圧はブリーダー電流を流すことでばらつきがあってもある程度安定するように変更している。新たに必要になったCRやボリウムは高耐圧のチューブラ型電解コンデンサを除き、地元のパーツ屋さんに置いてあった普通品を使っている。99年の終わり頃完成した。

   

   


300Bのカソホロ直結による固定バイアス化の結果は、やっただけの価値はあり成功した。明らかに以前の自己バイアスの時よりパワー感、透明感が増している。中域の張り出した感じはあるが、聴感上ナローレンジな感じも受けない。

ただし、単に6J5のカソホロ段を挿入するだけではダメだった。ただ単に挿入しただけだと、ちょっと非力で以前の91型のセルフ・バイアスの方が音のまとまりが良く、これは失敗かなと思い、初段の6SJ7のプレート電圧を変化させたり、6J5の+B電源から供給したりという試行錯誤の結果、6SJ7のプレート電圧を高くすればするほど、力感があってメリハリのあるような音になることがわかり、以前より2割強も高くした。

セルフ・バイアスの時は、実効Ebは318V、Ip69mAとプレート損失約22Wの控えめな条件であったので、音の変化がカソ・ホロ直結の固定バイアスにしたためなのか、単に300Bの動作条件が変化したからなのかはわからない。セルフ・バイアスで300Bのプレートに440〜450V位印加して比較しなければわからないが、電源トランスがMX-205のままであれば、それも不可能だ。


            


結果的に、測定器を持たずデジタルテスターのみで適当に作ったアンプとしては、製作費用まで考えればいい音ではないか、と自己満足している。これ以上のリファインを目指すならば、歪み率計などの測定器が必須となってくる。そこまで踏み込むべきかどうか? 初段が5極管の6SJ7であることで初段の歪みが出力段の歪みを上回っているだろう。ゆえに6SJ7のキャラクターの支配力が大きいので、これが好みを分けると思う。荒削りな部分もあるので、無帰還で歪みが最小になるような動作をさせた上で、ごく少量のNFをかけることで、もっと音に端正さが加わればもっと良くなるかも知れない。

現在、このアンプはサブシステムのパワーアンプとして、ソナス・ファベール コンチェルティーノというスピーカーに接続されて活躍している。アンプの出力は約8W程度でしかもスピーカーの能率は低いが、それでもLDを観たり中音量でジャズボーカルや室内楽を聴いたりするのには充分で、かなり稼働させているが、真空管がダメになるなどトラブルはなく快調である。

その後、タンノイ スターリングやアルテック604−8Gウーレイ仕様など、大型のスピーカーにも適応するようにCRの定数を若干変更するなど、何度か改良を加えた。



測定結果

オシロ、オシレータ、ミリボルトメータを手に入れ、簡単な測定をしてみました。

最大出力           約9W   (0.65V入力時)

周波数特性       13Hz〜55KHz  +0dB〜-3dB  (1W出力時)
               22Hz〜55KHz  +0dB〜-3dB  (8W出力時)

残留雑音         Lch 0.45mV  Rch 0.36mV (入力ショート)