真空管アンプと適合するスピーカー
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現代では真空管アンプに適合するスピーカーが少ない
真空管アンプが静かなブームになっていますが、最近の市販の小型スピーカーは、真空管アンプにマッチングの良い機種が少ないと思います。自作が好きな方ならば、やはり適当な気に入ったフルレンジなどのユニットを見つけ、自作するのが良いと思います。市販のものを求める場合には、以下のようなことをふまえ、機種の選定には慎重に検討すべきです。
最近、アルテック604−8Gのホーン部がウーレイ仕様になった中古を格安に手に入れたので、620Aのエンクロージャーを参考に制作しました。エンクロージャーの天板、底板、側板は、25mm厚のフィンランドバーチ集成板、バッフルと裏板は15mmフィンランドバーチ合板というちょっと高級な材料を使ったのにもかかわらず、完成品の中古を求めるよりずっと安あがりです。板の調達、切断と大きな穴あけは、閑人氏がご好意でやってくれたので非常に助かりました。100dB/m程度の能率がありますから管球アンプで駆動するつもりで、自作アンプのモニターの役目もさせるつもりです。
アルテック604−8Gオリジナルとの相違点は、オリジナルがマルチセルラホーンだったのが青い樹脂製のUREIのホーンに変っている。タイムアライメント重視のクロスオーバーを組み込んだその後の Ureiスピーカーシステムの基本となったユニット。
振動系は軽く帯域を欲張っていないスピーカーが良い
昔のスピーカーは、振動系が軽く、低音を出すためには大きなエンクロジャーに入れないといけないようなものが多かったのですが、同じ口径のユニットであっても、今日のユニットは振動系を重くしてボイスコイルのインピーダンスを下げること、ストロークを大きく取ることで、小容積のエンクロジャーでも、ある程度しっかりした低音が出てくるような設計が多くなっています。
その結果、アンプの駆動力に寄りかかるようなスピーカーが多くなりました。まず、能率が低いこと、インピーダンスが低いこと、ネットワークが複雑化しその結果、周波数−インピーダンス曲線のうねりの大きいものが増えて、ダンピング・ファクタが大きくても10程度で出力が10W程度の管球シングルアンプでは充分にドライブしきれず、スカスカの音でしか鳴ってくれないものがあり、大出力で低インピーダンス負荷に強く、ダンピングファクタも大きなソリッドステートアンプの方が鳴りっぷりが良いスピーカーが多くなっています。
アルテック604−8Gのような古いユニットでは、低音を充分伸ばすためにはバスレフでもかなり大きな箱が必要で、38cm口径のユニットが入るエンクロジャーも必然的に大型となります。
自作620Aもどきに入ったアルテック604−8Gウーレイ仕様
ミスマッチの状態では、良い音は得られない
管球アンプが好きでいろいろおやりになっているのに、使っているスピーカーが管球アンプに不向きな機種だったら、それこそ泥沼です。でも、そういう人をみかけます。アンプとスピーカーのマッチングは重要です。アルテック/ウーレイ604−8Gの入った620Aもどきのスピーカーは、わずか2W程度の出力しかない6EM7ロフティン・ホワイトアンプでも充分な音量が得られ、もっとグレードの高いアンプと聴き比べさえしなければ、結構満足のいく音で鳴ります。しかし、この6EM7ロフティン・ホワイトアンプは、能率が90dB/mもないソナス・ファベール コンチェルティーノを充分に鳴らすことはできません。ソナス・ファベール コンチェルティーノは、もっとドライヴ能力があって出力の大きなアンプが欲しいです。10W弱の出力の自作300Bシングルで何とか鳴る感じで、30W程度の出力がある三栄無線845シングルや自作F2a11プッシュプルだとそのウーハーが一回り口径が大きくなったような低音が出て、かなり鳴りっぷりが良くなります。逆に、アルテック/ウーレイ604−8Gの入った620Aもどきのスピーカーは能率が高いので、出力が小さくてもS/Nが良く高品位な音のするアンプのほうがマッチングが良く、残留雑音が2mV程度ある三栄無線845シングルでは、深夜に至近距離で聴くのにはハムが気になって音楽を楽しめません。アルテック/ウーレイ604−8Gの入った620Aもどきでは、至近距離で使う場合にはアンプの残留雑音の許容は0.7mVぐらいまででしょう。
部屋の大きさやスピーカーの能率によって必要なアンプの出力が違ってくることは当然です(スピーカーの能率が10dB/m違えば、同じ音量を得るのにアンプの出力は10倍違う)が、それ以外にも、真空管アンプに適合するスピーカーには条件があります。
真空管オーディオハンドブック 誠文堂新光社 の中で、佐伯多門氏が「真空管アンプ用スピーカー」というタイトルで書かれています。その中で、市販スピーカーを使用して真空管アンプと整合するための条件をきちんとスピーカーの専門家のお立場からわかりやすくまとめていらっしゃいます。ちなみに、佐伯多門氏は、三菱ダイヤトーンの数々の名スピーカーの開発に携わった知るひとぞ知るスピーカー・エンジニアです。
(同書籍より抜粋−引用)
(1)容積の大きいスピーカーエンクロージャーを選び、低音の再生は欲張らず、アコースティック・サスペンション方式のスピーカーを避ける。位相反転型エンクロージャーなどが適し、低域限界を低くして制動した伸びのある低音傾向のものは避けた方が良い。
(2)高音域の帯域も真空管アンプの高音特性と関係して欲張らず、高能率のスピーカーを選定し、中音域が充実した方が、全体の周波数特性バランスを良くすることが出来る。
(3)真空管アンプで駆動して期待の音量が得られるか検討する必要がある。
(4)スピーカーシステムのインピーダンスが6Ω以下では、マッチングが難しい。スピーカーケーブルの直流抵抗の影響が大きくなり、ダンピング・ファクタの悪化につながるので、できれば8〜16Ωの製品を選ぶべきである。(ただし、最近は6Ωが標準の真空管用出力トランスや完成品の真空管アンプも発売されているので、例外もあると思います)
このように、アンプはスピーカーの下僕であることを忘れてはいけないと思います。真空管OTLアンプがソリッドステートのアンプより音がいいという人も居ますが、真空管OTLアンプは、大型の8〜16Ωのインピーダンスをもつスピーカーなら水を得た魚のように良い音ですが、インピーダンスが4Ωを切るようなスピーカーを鳴らしきることは難しいです。このようなスピーカーなら、ソリッドステートのアンプを選択すべきでしょう。アンプだけで音質は語れません。使用するスピーカーとのマッチングが良くてはじめて良い音がするのです。
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