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  SG-50シングルステレオアンプ

   

SG-50という真空管

2005年に、現在も真空管製造している中国の曙光電子という会社がSG−50という真空管を作った。この真空管は、1920年代に開発されたUX−250という直熱三極管のレプリカである。左がSG-50、右が2A3Cという300Bのプレート構造で300Bと同じ大きさの直熱三極管である。1930年代になってから開発された2A3は、250Vの電圧(自己バイアス分を加算すると約300V)で3.5Wの出力が得られる。ところが2A3より古いUX-250は、450V(自己バイアス分を加算すると約535V)という高電圧でも4.6Wしか出ない。2A3とほぼ同時期に発売された後発の300Bは350V(自己バイアス分を加算すると420V)で7W程度と、低電圧で出力が多く取れて効率が上がっている。

いまどき、UX-250のような非効率な真空管のレプリカが再生産されるのは一つの驚きである。また、UX-250はグリッド電流が流れやすいため、規格ではグリッド回路抵抗値が10KΩ以下に制限され、自己バイアスで使用するように定められているので、通常のCR結合の回路では使うことが出来ないし、フィラメント電源が7.5V1.25Aと特殊で、おまけにバイアスも深くドライブしにくいなど、とても使いにくい。また、現行の市販真空管アンプ用電源トランスで、この球をシングルステレオで組めるものが皆無なのだ。

しかし、故浅野勇氏は、その著書「魅惑の真空管アンプ」で、『今、アマチュアにも入手できるようになったウエスターンの300Bなどは戦前の民生機用として全く販売されていなかったので、アマチュアが300Bによるアンプを組んだという記事をみかけませんでしたが、よしんば300Bが市場で入手し得たとしても’50アンプの人気は毫もこれによって左右されることはなかったものと思われます。』と書いている。使いにくいが音は良いということなのだろう。プレート構造はオリジナル250、50に忠実であるし、作りも良くオリジナルに近いにおいがするのだ。早速手に入れて製作することにした。尚、アンプが増えすぎるので300Bシングルステレオアンプは解体し、SL770というシャーシを含め再利用できるものは極力利用することにした。


電源トランスを特注する

ISOに頼み込んでこんな電源トランスを特注した。

型番 ISO:S−2504
1次: 0-100V

2次: 450V-400V-0-90V-400V-450V 220mA
    0-5V 4A  0-5V-7.5V 3A  0-5V-7.5V 3A  0-6.3V 5A

特徴
0-5V-7.5V 3Aというフィラメント巻線とし、50族だけでなく300B用にも使えるようにした。
6.3V5Aという容量の大きな前段用ヒーター巻線を用意した。(前段にEL34のような大ヒーター電力のパワー管を使ってパワードライブする回路も採用できる。)
前段にパワー管を使うことも想定しB電源にも多少余裕を設けた。
整流管用巻線を5V4Aと大きくした。5AU4という、5U4GBを一回り大きくしフィラメントに5V 3.8Aも食う大型テレビ用整流管が手元にあるので、これを使えるようにしたいため。

こんなふうに、いろいろと使いまわしができて、あとあと様々な回路を工夫できるようにした。


グリッドチョーク結合とする

SG−50のグリッド抵抗の制限についてだが、1920年代に製造された真空管より真空度は高いだろうし、グリッドにグリッドエミッションを防ぐため金メッキするなど、グリッド電流がオリジナル球のUX-250や50のようには流れないだろう。しかし、オリジナルの250や50と同等ということで回路設計し、無調整でUX-250や50などのオリジナル球と挿しかえることができるように設計した。将来、オリジナル球を幸運にも手に入れることが出来たなら是非使用してみたいと思うからである。

グリッド抵抗10KΩ以下という制限に対しては、以下のような回路的工夫が考えられる。

1)ロフチン・ホワイトアンプとする。
2)ドライバートランスを使いトランスドライブとする。
3)出力管をドライバー管に使いパワードライブする。
4)カソードフォロワ直結とする。
5)出力管のグリッド回路にチョークを使う。

コストが比較的安くて回路も簡単になりそうな、5)のグリッドチョークを使うことにした。グリッドチョークを使う回路も、戦前からある古典的な回路技術だ。グリッドチョークはオーディオ専科製AP-113Cを用いた。尚、完成後、SG-50のグリッドアース間の直流電圧を測ってみたが、グリッド電流はほとんど流れていない。参考までに、AP-113Cの直流抵抗値は約580Ω程度である。




フィルム・コンデンサを多用

+B電源は500Vを超える高電圧となるので、一般のアルミ電解コンデンサを使用する場合、耐圧が不足し直列にするなどしなければならない。音質、寿命の点から+B電源には630V耐圧のフィルムコンデンサや370VAC耐圧の交流モーター用進相コンデンサを用いた。また、カソードのバイパスコンデンサは湿式銀タンタルコンデンサを使い、アルミ電解コンデンサを使用したのはフィラメントDC点火回路のフィルターのみである。


平凡な三段増幅回路

回路は、双三極管5692(6SN7の高信頼管)を片chあたり1本使用したシンプルで平凡な三段増幅回路である。2A3や300Bの場合では高μ三極管のSRPPによる二段増幅が有力だが、SG-50のようなさらにバイアスが深い出力管の場合では、無帰還でも最大出力時に1V以上の入力電圧が必要になるので、今回は見送った。




特性

最大出力 約4.6W  0.35V入力時

周波数特性 
1W出力時 
低域 −1dB 18Hz   −1.5dB 10Hz  
高域 −1dB 32KHz    −3dB 75KHz    −6dB 100KHz

4.6W出力時
低域 −1dB 36Hz     −3dB 21Hz     −6dB   12Hz
高域 −1dB 38KHz    −3dB 61KHz    −6dB 100KHz

残留雑音 Lch 0.26mV Rch 0.35mV



音質

あくまで主観であるが、ALTEC604-8G-Urei仕様620A型自作スピーカーに接続した状態では、高域は伸びて清澄な感じでスッキリ感があり、低域から中域にかけては力強さもあり、音に滲みがない。能率が100dB/Wmあるので出力も不足を感じない。低域のたたずまいは解体した300Bシングルの時とはかなり異なる。もう300Bに戻して組みなおそうという気は起きない。TANNOY STIRINGでは、出力が小さいので大編成のオーケストラを大きめの音でかけるのは苦しく、ジャズのベースなどの低音はもう少しダンピングが欲しい気もする。しかし、室内楽やボーカルは非常に美しく奏でてくれる。



    


SG−50の印象と注意点

SG-50は、復刻版WE300Bよりも音質的に良いアンプが作れる可能性がある良い球という印象だ。音質については、メールを頂いた長年’50のオリジナル球を使っている方も同じような評価をされていた。しかも価格は、2008年1月の時点で、中国現地では37ドル、国内ではペア¥14800で売られているところもあるので、購入先を選べばそれほど高価な球ではない。我こそはと思う方は、是非、アンプ作りにチャレンジして欲しい。また、’50の代替球として試用してもらいたい。

SG−50の欠点は、オリジナルの'50にくらべフィラメントが弱いことだ。アンプが完成して10ヶ月ほどの時点で、すでに、フィラメント切れは3本発生している。すぐにフィラメント切れを起こすことは、SG−50を使用された他の方からメールをいただき、オリジナル球では10数年使っても起きなかった頻繁なフィラメント切れで困っているというので、私だけではないことが判明している。メーカーは、フィラメントの改良をして欲しい。取り扱いをしている管球店も仕入れルートを通じてメーカーに改善を要望して欲しいものだ。このままでは、SG−50は、戦前の国産のDON超45のように、音は良いのにフィラメントがすぐ切れやすい幻の球で終わってしまう気がしてならない。

フィラメントのトラブルがあったので、販売店を通じ曙光電子に照会したところ、SG-50は、オリジナルUX−250の最大定格の85%以下で使わないと寿命が極端に短いらしいそこで、整流管の後の47Ωを200Ωに、チョークの後の左右に振り分ける200Ωを300Ωに変更してプレート電圧を下げ、プレート損失が約20〜21W程度になるように変更した。プレートには485V(実効で約410V前後)印加された状態で最大出力は4W弱程度となる。

オリジナルの'50を入手して気づいたのだが、SG−50は、オリジナルに比べフィラメントが細く、かつ、より明るく輝く。つまり、カソードの温度自体、SG−50の方が相当に高くなり、さらに細いフィラメントを採用しているので、フィラメントの寿命がおしなべて短いのかな、と感じる。善後策としては、わずかにフィラメント電圧を5%ほど低めにし、約7.0V〜7.1V位に変更し、上述のようにプレート供給電圧を最大定格から1割程度下げてみた。これ以上フィラメント電圧を下げるとエミッションが低下してしまうし、オリジナルの’50を挿すのにも支障が出る可能性があるので決定した電圧である。いまのところ、これらの変更後は、フィラメント切れの事故は1本も起きていない。

また、プレート損失の定格いっぱいで使ったものは、フィラメントが切れないものでもわずか数ヶ月でエミッションが落っこちている。メーカーが定格の85%以下で使えというのは、エミッションの低下が異常に早いためではないか、と私は推測する。このエミッション低下も結局はフィラメントが弱いからだと思う。



RCA ’50を入手

オリジナルのUX-250や’50も挿せるように作ったので、何とか状態の良いオリジナル球をできるだけリーズナブルな値段で欲しいなと探していたが、なかなか見つからない。秋葉原の真空管屋さんにも在庫はほとんどないし、あっても状態が良くてこれは良いというものは非常に高価で手が出せなかった。2007年12月になって、ようやく入手したのがこれ。


1957年32週の製造なので、後期のもの。中古ではあったが、管壁の焼けもなくゲッタも充分あり、ガスやノイズもなくエミッションも正常なもの。真空度や球の造りは、後期の方が良く、後期のものの方がグリッド電流が流れにくく、長期に使用しても内壁が黒くなることも無い。SG-50は、この球の音に近い鳴り方をするので、充分にレプリカとしての価値があることを確認した。



こちらも、STタイプのRCAだが、前期のもの。電極上部のガラスと接触する部分がマイカで出来ていて、ゲッタが横に吹いてある。中古なので内壁が黒くなっているが、真空度は高く保たれているようで、どちらの球も上部の管壁に紫色の蛍光が出る。音質はSG-50や後期’50よりもいくぶん高域が軟らかくしなやかである。

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