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     PX25シングルステレオアンプ



PX25シングルアンプを作ろうと思い立ったのは、自宅のリスニングルームで、様々な真空管アンプを使い、ウエストミンスターなどのTANNOYのスピーカーを鳴らすミニ試聴会をしたときです。

そのときには自分のアンプだけでなく、他の参加された方がアンプを持ち寄ってくださって、様々な真空管アンプを聴く機会に恵まれました。その中で特に印象に残ったのが、最大出力たった2WのPX4シングルアンプと、俎板に組んだようなPX25シングルアンプでした。どちらも気品があり、弦楽器をしっとりと美しく鳴らしました。また、女性ヴォーカルの品性のある美しさが、いつまでも記憶に残りました。

ヨーロッパの古典直熱三極菅は素晴らしい。いつかはPX4あるいはPX25シングルアンプを製作せずにはいられない、と思ったものでした。そして、このときから、このアンプの部品集めが始まったのです。それから10年近くが過ぎ、やっとそのときの思いが実現しました。




PX25という真空管とは?

1930年ごろに開発されたヨーロッパの直熱三極管です。1930年代に製造されたものは茄子形をしており、後の時代にはドーム型になりました。

この写真にある9本のPX25は、英国空軍ナンバーのVR40と表示されていたり、Zaerixのように商社のブランドであったりするものもありますが、全て英国M.Oバルブ製で、1930年代に製造されたものです。



設計製作コンセプトと回路

製造されてから70年以上を経過する真空管を用いてアンプを製作するわけですから、いたずらに特性や大出力を追い求めるのは止めて、PX25のバイアスが浅くドライブが楽であるという特徴を生かしながら、グリッド・チョークを使って70年以上前に製造された古典球を保護し、前段に高μ管を使用し二段アンプとすることにしました。




主な使用部品







OPT:PEERLESS S255-S 旧タイプ

オーディオ専科の森川さんがアメリカ出張した時にアルテック本社で見つけてきたもの

このスペックシートを見ると、低域の再現性は抜群です。3.5KΩで100mA流した状態で40Hzで40Wですから、タンゴのOPTであればFC30-3.5Sには劣るもののXE-20S(40Hzで20W)を上回ります。このPEERLESS S-255-S旧型は、バンド型リード線タイプだったものをオーディオ専科が角型ケースに入れたもののようです。




グリッド・チョーク:オーディオ専科 AP-113C

SG-50、50シングルアンプで使ったのと同じです。



チョークコイル:ノグチ PMC-1520H

低域のクロストーク特性を良くするつもりで、片CH1個づつ計2個使用しチョーク以降を完全に左右別電源にしました。価格の割りに性能が良いのが採用理由。カバーと台座はブラックハンマートンに塗り替えて、電源トランスと色を揃えています。



電源トランス:タンゴMX-355 

確か1万円くらいだったです。上部のカバーに目立つ擦り傷のある中古です。これは、カバーの傷を養生し、ブラックハンマートーンで自分で塗りなおしました。
本来は300Bpp用のものですが、400-370-80-0-370-400V 350mA、5V6A、5V4A、5V4A、0-6.3-10V4Aの巻線が付いているもので、5V4Aを整流して4V2AというPX-25のフィラメントを直流点火しました。SNを考えるとAC点火は自信がありません。AZ50は5V6Aを抵抗で落として4Vで点火します。300BPPステレオ用の電源トランスをPX25のシングルアンプに使うなんてオーバークオリティですが、値段が安かったから良いじゃないですか。PX25は、フィラメントが2AなのでDC点火しようと思うと3Aの巻線では不足で特注を覚悟していたのですが、5V4Aの巻線を2つ持つこのトランスならOKです。



使用真空管

前段管: 7F7(6SL7のロクタル管)             整流管:AZ50 ソケットがPX25と同じUF
  



内部

配線は決して綺麗に出来ていませんが、メンテナンスがやりやすいようにはなっています。
回路がシンプルなので、音質を左右するCR部品にはこだわりました。電源部の四角いオイルコンは、東一のT-CAP/D ブロック型オイルフィルム、円筒形のはSHIZUKI SH-P型、PX25のカソード抵抗はIRCの巻線抵抗、カソードのパスコンは出力段、前段ともに湿式銀タンタルコンデンサを使いました。カップリングコンデンサは、スプラグ VITAMINQ、PX25のフィラメント電源のドロッパー抵抗はDALEの巻線抵抗を使っています。フィラメントのブリッジダイオードは、ショットキ・バリア・ダイオードです。UFソケットですが、現在安く買える中国製のものはお勧めしません。抜き挿しがスムーズに出来ませんので高価な球を傷めてしまう恐れがあります。使用したのは、ヨーロッパ製のNOS品です。



特性

残留雑音 
両Chとも0.9mV以下。
PX25を差し替えてハムバランサを最適位置にすると、少ないものだと0.4mV台。多いものでも0.9mVくらい。まあ、このくらいなら実用上問題ないです。

最大出力
0.52V入力時(1KHz)   6.0Wくらい。

周波数特性   
8Ω負荷2.8V(1W)出力時 
低域 -1dB 21Hz  -3dB 14Hz  -6dB 11Hz
高域     15KHz      28KHz     43KHz

8Ω負荷6.9V(6W)出力時
低域 -1dB 55Hz  -3dB 27Hz  -6dB 14Hz
高域     15KHz      27KHz     35KHz

 シングルアンプにしては低域は伸びていると思いますが、高域は減衰が早い(^^;)。でも、無帰還アンプなのでこんなものか?



音質

いわゆる素性の良い直熱三極管らしい音質です。さらに、しなやかさとしっとりした質感を持った品性の良い音質です。弦楽器の質感や女性ヴォーカルは美しい。SV-811-3や845、VT62のようなトリウムタングステンの真空管は、音が若干乾く感じがあるのですが、そういった感じとは明らかに異なります。



2022年12月 
前段管をCV569/ECC35に変更

このアンプを制作したのは2012年の夏で10年が経過するが、様々な真空管アンプのマニアの方達から、「なぜ前段管がアメリカの球なんだ、前段管も英国球にしろよ。」という意見をうかがっていた。ごもっとも。今になって入手が困難なCV569/ECC35を手に入れる事が出来たので、ソケットをロクタルからオクタル(US)に交換してみました。回路定数はそのままです。
  
見た目はこんな感じであまり変わりない。ロクタル管の7F7はオクタルの6SL7と同じ特性でμ70。CV569/ECC35は6SL7と同じピン接続でμ68。全く同じ特性では無いが事実上、6SL7とCV569/ECC35は差し替えが可能です。ただし、私のPX25シングルアンプは7F7だったので、ソケットを替えなくてはいけなかった。

音質はかなり変化した。中低域がよりしっかりし、英国的ヨーロッパ的なしなやかさ美しさは磨きがかかった。7F7が決して悪かったというわけでは無いです。音のテイストとして異分子のような感じだったというのが、今回変更でよく判りました。

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