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第二次大戦時代のレーダー用送信管を使ったシングルアンプの製作

     Eimac 327Aシングルアンプ



            

光り輝く出力管。プレートがピンク色に赤熱して動作する。


Eimac327Aという真空管

Eimac 327A Eimac 100TH

Eimac 327Aは1930年代〜1940年代の古い米国製の送信用の真空管でレーダー機器の200MHzの送信に使われた。同様の用途で用いられたEimac 100THは1944年頃から使われだしたが、Eimac 327Aはそれ以前から存在した真空管だと思われる。
管名  形式  動作 Ef/If フィラメント Ep max μ
Eimac 327A 三極管 B級/C級 10.5V/10.7A トリタン 直熱 3000V 31
Eimac 100TH 三極管 B級/C級 5V/6.3A トリタン 直熱 3000V 38
Eimac 327AとEimac100THは、プレート構造や特性は類似しているが、Eimac 327Aはフィラメント定格が10.5V/10.7Aと3倍の100Wを超え、物凄く発熱する。さらに、現状、ソケットやプレート端子、グリッド端子に市販品が無い。このような事から決して使いやすい真空管ではない。

Eimac 100THは、UXソケットやプレートキャップなど全て市販品が適合しフィラメント電力が31.5Wと少なく、なおかつ、放熱に配慮された形状になっており、オーディオアンプに用いる場合に、より使いやすい。

Eimac 327Aの底面のガラスが黄緑色をしているのはEimac100TH同様にガラスを突き抜ける電極部分にウランガラスを使っているから。ウランガラスの膨張率は通常のガラスよりも引き出し線の膨張率が近似していて、物凄い発熱を伴って動作するので採用された。プレートはモリブデンが使われており、当時の最先端の真空管製造技術を使って製造されたもの。

   
こちらは米国海軍納入日が1943年(昭和18年)2月24日のスタンプのある外箱に入っていたもの。

第二次大戦で米国の戦艦などのレーダー機器に使われた当時の最新鋭の技術を使って製造された真空管が、21世紀になって、かつての敵国に渡り美しく光りながら音楽を奏でる為のオーディオアンプに使われるって、ロマンがあると思いませんか?

設計コンセプトと回路


全回路図


1)スイッチング電源やクーリングファンなど、PC用部品を活用
10.5V、10.7Aというフィラメントは、スイッチング電源を使って点火。
ソケットやプレート端子、グリッド端子は自作あるいは既製品を改造して用いている。
放熱に関しては、Eimac 327Aの真下からPC用のクーリング・ファンを使って空冷している。



2)グリッドプラスで使う送信管を6CA7/EL34(三結)のカソードチョークドライブとする。

ポジティブグリッド動作となる場合にはダイナミック・カップルとか宍戸式イントラ反転ドライブなども考えられるが、コストが安くて作りやすいカソードチョークドライブとした。



シャーシとクーリング・ファン


ノグチ 2MM500 450x250x60(H)

12cm四方の大きさのクーリングファン
シャーシは、ノグチ 2MM500を自分で穴あけして使用した。裏蓋にはクーリングファンを取り付ける大きな穴も自分で開けた。

 

特注電源トランス

春日無線変圧器 O-BS1000型(300VA) 2個
1次 0-100V
2次 5V3A、6.3V3A、6.3V5A、6.3V5A
   500V-460V-0V-460V-500V 0.2A 
300VAの容量を考えて6.3V5Aのヒーター巻線を2つ余分に設けた。B巻線の両端が1000Vあるので、B巻線は高耐圧電線で巻いてもらい、ショートリング、磁気シールドは付けてもらった。


内部の様子

 

配線は決して綺麗に出来ていないが、メンテナンスがやりやすいようにはなっている。



特性

無帰還時
最大出力 21W  0.2V入力時(1KHz正弦波がオシロの観測で波形が崩れだす)
周波数特性 1W出力時
低域側 -1dB 72Hz  -3dB 33Hz  -6dB 19Hz
高域側 -1dB 17KHz -3dB 33KHz -6dB 49KHz



約6dBのオーバーオールNFBをかけた時 
最大出力 21.7W  0.4V入力時(1KHz正弦波がオシロの観測で波形が崩れだす)
周波数特性 1W出力時
低域側 -1dB 13Hz
高域側 -1dB 33KHz -3dB 63KHz -6dB 92KHz

残留雑音は2mV以上あるが、スイッチング電源由来の高周波ノイズがほとんどで、スピーカーにつないで耳に聞こえるハムが出たりすることはない。

560pFの微分補正のコンデンサについては、これが無いと10KHzの方形波で大きなオーバーシュートが見られ、300pF程度だとそれが小さくなるがまだはっきり残っている感じで、560pFだとオーバーシュートは無くなる。430pF〜560pF位で良い感じになると思う。TANNOYのような高域が神経質なスピーカーを鳴らす場合を想定すると、560pFが良かったのでこの値にした。


音質

トリウムタングステンフィラメントの送信三極管らしいスッキリした立ち上がりと力強い中低域が好印象。 フィラメント電力の大きな管もスイッチング電源を使う事で実用になる事がわかった。高周波ノイズが少ないもっと高品位なスイッチング電源を使えば、もっと良いアンプが出来ると思う。

参考文献:MJ無線と実験 2015/2 Eimac100THシングルアンプの制作 柳沢正史


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