3C33プッシュプルステレオアンプ
3C33という真空管
3C33は、本来は工業用・軍用の真空管だが、特性的に有名な2A3というオーディオ用の三極管を2本まとめて1つの管に封入したのに相当する。オーディオ用として使ってもかなり良い音がする真空管で、昔から一部の真空管アンプ自作愛好家の間では熱烈なファンがいて、賞用されていた。1本でプッシュプルアンプ、あるいはシングルステレオアンプが組める。形は、このように大きなドングリみたいだから、ジャンボドングリのニックネームがある。
6C33CB 3C33 WE300B 2A3
大きさは他の大型のオーディオ用真空管と比較して小さい位だが、パルス変調用として使われた真空管らしくタフで、瞬間的な過大電流を流すような動作に耐えるので、プッシュプルAB2級で動作させれば、片ch1本で40W程度の出力を得ることもできる。しかし、もともとオーディオ用ではないので、この真空管を使ったメーカー製真空管アンプはほとんどない。オーディオ雑誌に掲載されたものでは、1980年代終わり頃に台数限定で発売されたもので、当時のリッスン・ビューという雑誌に掲載されていたのが記憶にあるくらいで、あとは雑誌にも紹介されないマイナーなガレージメーカー製のものがあるだけだ。
3C33は、現在では全く製造されていない真空管だし、残っている数も少なくなっているため、これから先もオーディオメーカーがこの球を採用し、きちんとしたアンプを製品としてまとまった台数生産して発売するとか、あるいはアンプキットとして発売することも難しいと思われる。現状では、この真空管を使ったアンプが欲しければ、自分で作るか、1台1台カスタムメイドするような真空管アンプ工房に製作依頼するしかないだろう。
予算
この3C33プッシュプルアンプの部品を2005年の時点で新規に全部普通に集めると、15万円近くになってしまう。真空管と新品トランスを揃えるだけで10万円を超えてしまうから、コストが高くなるのは仕方がない。同じ規模の三極管のプッシュプルアンプを製作するなら、価格の安い5998Aか、ロシアあるいは中国製の2A3を採用した方が確実に安く出来る。しかし、幸運にも3C33やトランス類がとても格安に入手出来たので、昨年製作した2A3EHプッシュプルステレオアンプより安く、約8万円程度で製作が実現した。
主要部品とレイアウト
シャーシー
オークションで手に入れた、2mm厚のアルミで出来た39cmX26.5cmの大きさの鈴蘭堂のSL10に似た穴があいていないもの。¥8500だった。ゆっくりレイアウトを考えて穴あけ作業をやった。鈴蘭堂のSLシリーズと比べると、やはり細部のつくりは値段なりに劣るが、このアンプに使用するかなり重量のあるトランス類を搭載しても大丈夫なだけの強度は持っている。
2mm厚のアルミというのは、ちゃんとした工作機械を持たない素人が穴あけをするのは結構大変だ。電源トランスの大きな四角い穴に加えて、出力トランスとチョークコイルがタムラ製なので、46mm径丸穴が3個、3C33の56mm径丸穴が2個、ブロックコンデンサの35mm径穴が2個、14AF7用の28mm径丸穴が3個、5AR4用の30mm径穴が1個ある。5AR4用の30mm径穴を除き、いずれも円周上に沿ってドリルで沢山の小穴をあけた後、ニッパーで切って落とし、ヤスリで丸く仕上げるフリーハンドでの穴あけ作業だった。1.5mm厚までのアルミで30mm以下の穴ならシャシーパンチで何とかしてしまうのだが、2mm厚もあると綺麗にはあけにくい。このような手作業では、たった1個の穴あけでも相当な手間と時間がかかる。しかし、安価な無穴シャシーを購入して手間暇かけるのも、アマチュアの製作の楽しみの一つとして割り切った。
上部パネルは、穴あけ終了後、#320のサンドペーパーでヘアライン出しをしてクリアーをスプレーするだけで仕上げた。フレームは、つや消し黒をスプレーした。 フレームと上部パネルは、左右2本づつ計4本のネジで止まっているだけだったので、新たに前部と後部に5個ずつ穴を開けて計10個の3mmトラスネジを追加してネジ止めし、充分な強度を確保している。その他、ソケットやコンデンサの取り付けネジも、全てトラスネジで統一した。
出力トランス:タムラ F−783
中古。名古屋に用事で出かけたおり、ぶらっと立ち寄ったアメ横ビル内の小坂井電子で、秋葉原の新品実売価格の半額で売られていたものを見つけ入手。50WクラスのZp-p5KΩの出力トランス。DCアンバランスの許容が大きく、単管でプッシュプルとなる3C33にはまさにぴったりで、角に丸みを持たせたデザインも3C33にはお似合いだと思った。値段相応に外見がみすぼらしかったのだが、塗装をしてかなり見栄えが良くなって蘇った。色は銀色で、皮膜を強くするためにクリアーをかけて仕上げた。
チョークコイル:タムラ A−396
これだけ普通に新品を秋葉原のパーツ店で購入。出力トランスがタムラF−783に決まったことから統一されたデザイン、予算の面で必然的に決定された。5H200mAのもの。こちらも出力トランスと同じ銀色に着色した。
電源トランス:ノグチ PMC-283M
未使用品をオークションで安く入手。この電源トランスには、80Vのバイアス用のタップもあるし、320V、280Vのタップが出ている。2A3プッシュプルアンプで採用したISO MX−280は、ハンマートーン塗装がなされ仕上げが立派なだけに高価だが、ノグチPMC−283Mも実質的にほぼ同様の規模のトランスであり、2A3プッシュプルや3C33プッシュプルのステレオアンプが組める。3C33プッシュプルだとかなり電力容量に余裕が出るので発熱は少ない。ノグチPMC−283Mは仕上げに凝っていない分、割安なトランスだ。デザインを統一するために、上部カバー部分のみ他のトランスと同じ銀色に着色したので、見栄えもそれなりに良くなったと自分では思い込んでいる。
前段球:14AF7
初段、ドライバー段ともに14AF7という6SN7類似の特性をもったヒーター12.6Vのロクタル管を採用した。もともと3C33はヒーター12.6Vなので、前段球も12.6V球を採用し電源トランスの2組の6.3V3Aのヒーター用巻き線を直列にすれば、整流管を除く球を全部いっしょに点火できるので好都合なのだ。容姿が3C33の前段にはぴったりで良く似合う。しかも、現在でもかなり安価にNOS球が入手できる。この球は浅野勇氏の「続:魅惑の真空管アンプ」での3C33プッシュプルステレオアンプにも使用されていた。
余談だが、浅野勇氏の「続:魅惑の真空管アンプ」の掲載アンプの中で、個人的には、3C33プッシュプルステレオアンプの容姿が一番良いように感じている。浅いシャーシーに、左右対称にトランス類や真空管が配置されていて、とてもカッコ良い。しかし、現在では使用されていた電源トランス、タムラのF600シリーズやF700シリーズと同じ形のタムラPC−171が新品で手に入らない。中古でごく稀に出ることがあるがプレミアムが付いてとても高く手が出ないので、夢だった「続:魅惑の真空管アンプ」掲載アンプの忠実な復刻は断念した。
整流管:5AR4/GZ34
手持ちにあるので、シリコンダイオードを使わず整流管での整流方式を採用した。
アルミ電解コンデンサを全く使わない
アルミ電解コンデンサを全く使わないで済ませた。電源部のフィルターは、東一のT-CAP/R メタライズドフィルム500V47uF+47uFを2本使い、初段と出力段のカソード・パスコンには、手持ちのスプラグ製の湿式銀タンタルコンデンサを使用した。
東一のT-CAP/R メタライズドフィルム500V47uF+47uFは、2A3プッシュプルアンプの電源フィルターに一部使ったが、SNが良くなって音がしなやかになり低域は良く締まる。音質上の利点だけではなく、フィルムコンデンサとか銀タンタルコンデンサは、通常のアルミ電解コンデンサと比べ比較にならないくらい長寿命なので、アンプの長期安定動作に貢献すると思う。
ソケットの落とし込み
3C33のソケットを10mmの金属スペーサーを使って落とし込んでいるので、このように3C33のお尻が隠れてカッコ良く見える。さらに、球の周囲に5mm程度の隙間が空くために放熱が良くなり、寿命の点でも有利。もしも、ソケットを落とし込まない状態のまま製作したのなら、3C33の丸みをおびたお尻が見えてしまい、デザイン上好ましくない。工作その他が面倒であっても、3C33のアンプを製作する場合にはソケットを落とし込むべきだと思う。真空管アンプは、格好が大事なのだ。
回路構成
過去に雑誌などで発表された3C33アンプ製作記事の中では、上野忍氏のムラード型の回路が一番簡単で部品点数が少なく、前段が全てローμ管で構成されていて、動作も大変安定しそうな感じだ。
前回製作した2A3EHプッシュプルアンプのように前段を直結二段差動型にすると、マイナス電源が必要になる。出力段を固定バイアスとするなら一緒にバイアス用のマイナス電源を共用して組めるのでスマートだが、出力段を自己バイアスにして出力段にマイナス電源が不要だとなれば、直結二段差動型よりも前段もマイナス電源が全く不要なムラード型が良いと判断した。初段の14AF7を1本で済ませ左右に振り分けたので、ドライバー段も含めてステレオで合計3本の14AF7を使用している。3C33は、頑張れば30Wを超える出力も可能な球だが、今となっては貴重な球となってしまったので、出力を欲張らず2A3EHプッシュプルアンプとほぼ同等の15W程度を目標とし、長期安定動作するように大切にいたわって使用する回路とした。上野氏の設計では、3C33のグリッドに寄生発振対策の抵抗が入っていないが、一応1.5KΩの抵抗を入れた。
電圧が高めに出てくると予想して、上野氏の回路での250Ωのカソード抵抗をあらかじめ300Ωにし、バイアスを深くして絶対にプレート損失をオーバーさせないようにした。3C33のプレート供給電圧は389V(実質プレート電圧359V)で、カソードの電圧が約30V。プレート電流は80mA/chを切っている。
この動作点でも、Zp-pが5kΩのF−783であれば全く問題ないと思われる。ちなみに、浅野勇氏やValve Worldさんの動作では、トランスがF−682、F−782なのでZp-p3.5KΩないし3.8KΩだ。これらよりは私のものは、ロードラインが横に寝てプレート電圧が高くバイアスが深いところに動作点がある。
軽度の負帰還をかけた
NFB約7.1dBかかった状態で1.3V入力時で12.5W出力を得る。 オシロの正弦波の波形は12.5Wまでは全く崩れない。その後、15Wくらいまでは入力に対してリニアに出力が増大し、その後さらに入力電圧をあげていけば20Wくらいまでは出力が上がる。1W出力で低域は10Hzまではフラット、高域は−3dBが50KHz、−6dBが77KHzと高域はあまり伸びていない。NF抵抗に位相補正のコンデンサを並列に入れた状態でも230KHz付近にピークが残っているが、充分に減衰した後なので問題はないし、0.47uFの容量負荷における10KHz方形波応答でもリンギングが生じるのみで発振の気配はない。この程度の軽度の負帰還でも低域の締まりが良くなる。
内部の様子
使っている抵抗類は、3C33の300Ωのカソード抵抗が国産のホーロー抵抗なだけで、DALE、OHMITE、MEPCO、RSコンポーネンツ、ALLEN-BRADLEYなどを使っている。2.7KΩのNF抵抗は、 VISHAY金属箔抵抗を使用している。
アース母線と出力トランス二次側からスピーカー・ターミナルまでは、手持ちにあった2mm径の5N銀単線を使った。ソケットは、5AR4/GZ34はオムロンのリレー用ソケットを使い、その他はロシア製、あるいは中国製と思われる安いものを使った。0.22uFのカップリングコンデンサは、写真ではERO KT1801が写っているが、現在はASC X363が付いている。
3C33とソケットで気をつけなければいけないのは、最近のロシア製のソケットはコネクターが固くて、脱着のとき、斜めにグリグリと無理にやると3C33のピンの部分のガラスにクラックを生じて、球をダメにする可能性がある。ソケットは、あらかじめ不良球や同じソケットが使用できる6C33CBや829Bなどで脱着を繰り返し、ソケットのコネクターを球のピンに充分になじませてから使用したほうが良い。米国ジョンソン製のソケットなら、このような必要は無いかもしれない。
この3C33プッシュプルアンプは、同じ双三極管である5998Aや6080などのレギュレータ管が無帰還だと低音余りになる傾向があるのに対し、無帰還でも低域が締まる感じがあり、ややカチっとしながら独特の透明感がある感じの音のものになり、とりあえず3C33の素性を生かせたものになったと思う。電源部のフィルターコンデンサの容量が少なめだが、初段の球を選別すれば残留雑音は無帰還でも0.5mV程度になるので、ハム音が出るようなことはなく、SNも良好である。
その後
ちょっと、またイタズラを始めてみた。
300Ω10Wの3C33カソード抵抗を200Ωに変更するのと同時に、電源トランスの一次側のタップを100Vから105Vに変更した。すると、3C33へのプレート供給電圧は357V、カソードの電圧は26Vと、浅野勇氏の「続・魅惑の真空管アンプ」掲載の動作点とほぼ一緒になった。
NF抵抗や位相補正のコンデンサはそのままで、入出力特性と、高域の減衰特性だけ測ってみた。約1.0V入力で12W出力でクリップし、高域は−3dBが65K、−6dBが100Kと、高域が伸びるようになり聴感上、音は端整でおとなしい感じになった。この状態でNFBは約6dB強かかっている。
カップリングコンデンサをいろいろ試した結果、締まって高域が伸びるようになるASC X363が好みだが、今度は、位相反転段のグリッド−アース間の0.47uFをEROからWIMAの赤い箱型のものに変えたところ、かなり低域が締まって上が素直にスッキリ伸びた感じになった。
さらに、2.7KΩのNF抵抗を2.2KΩに変更したところ、1.2V入力で12W程度の出力となり、NFBは約7.7dBとなった。この状態で、1W時の高域の減衰特性は−3dBが77KHz、−6dBが120KHzで、高域もさらに伸びるようになり、低域の締まりもほどほどで、音には端正さが増した。
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