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     2A3プッシュプルステレオアンプ



タンノイ スターリングという25cm同軸ユニットが使用されたスピーカーを手に入れたが、これを満足にドライブできるパワーアンプを作ることにした。このスピーカーは一般的な広さの部屋であれば、15W+15W以上の出力がある高品位な管球アンプで駆動すると、かなり満足度の高い再生ができる。出力が10Wを超えるとシングルアンプよりプッシュプルのほうがコスト的に有利になるのでプッシュプルアンプを考えた。

     

   

  VT62プッシュプルアンプキットのシャーシーを流用

今回は、ロシア製2A3EHを用いて製作を検討している。シャーシーは、オーディオ専科製の、本来はVT62プッシュプルステレオ用のものが安価(半額以下)で手に入ったので、これを用いることにした。アンプを製作する上でシャーシーはとても重要である。部品のレイアウトや完成後のデザインが決まってしまうだけでなく、強度があるしっかりしたものでなければ良い音はしない。このシャーシーは、堅牢に出来ている上に上部にゴールド仕上げのアルミ製のサブパネルで、ソケットやコンデンサの取り付けネジが外から見えないようになっていて、完成後はメーカー製アンプに劣らない美しい外観となる。長く使いたいようなアンプは見栄えも良くなくてはダメなのだ。このシャーシーには大型出力管4本に整流管1本、MT管が片chあたり3本装着できる穴があいている。装着できるトランスISO FX−40−5、EC−10−180、MX-280を使って回路を考えた。













尚、EC−10−180は取り付け金具を自作しないとシャーシーのチョークの装着穴に合わない。このシャーシーの穴は旧タンゴのMC−10−200に合わせて開けられているが、現行のEC−10−180はこれより一回り小さく、取り付け寸法も違うからである。左の写真は黒いのが自作した取り付け金具、手前が純正の取り付け金具、その右はEC−10−180である。







  2A3EHは普通の2A3とは違う

現在入手容易な2A3中心に手持ちのものを並べてみた。
     
左から、エレクトロ・ハーモニックス2A3GOLD、ソブテック2A3、(以上ロシア製)、曙光電子2A3B、曙光電子2A3C、(以上中国製)、カナダ・ウエスティングハウス2A3(これのみ1950年代製造のNew Old Stck)

このアンプは、意図的に通常の2A3の規格をオーバーした動作をさせるつもりだ。理由は、現行のロシア製の2A3EHは300Bのプレートを流用して製造されており、フィラメントが2.5Vのミニ300Bだと考えたほうがよく、従来の2A3の2割増くらいのプレート損失で動作させても全く心配ないし、最大プレート電圧に関しても300B並の高圧をかけても大丈夫なのだ。それでいて、同じロシア製の300Bの約1/3の値段で入手できるので、とてもコストパフォーマンスのいい真空管だと思う。

このアンプ製作にかかる総コストは10万円前後程度におさまるものと思う。あくまで机上計算なので、実際に製作した場合には臨機応変に変更が必要になるだろうが、これで17〜18W/ch程度の出力が得られると予想される。左が2A3EH、右は2A3の6.3V管である旧ソ連の6B4Gである。多くの2A3の電極はこのような形をしている。2A3EHが普通の2A3とは違うことが一目でわかる。逆に言えば、このアンプには昔の従来の2A3では規格オーバーになるので使用できない。




  5814A、6414を使用した直結2段差動型とす

初段には5814A、ドライバー管には6414をパラにして片ch2本用いることにし、F2a11プッシュプルと同様に直結2段の差動型回路を用いることにした。これらのMT管はいずれも安価で入手した手持ちの真空管である。

この回路だとドライバー段には400V程度の電圧を供給しないとバイアスの深い2A3EHをドライヴすることは難しいので、出力段とは別にダイオードで整流して高い電圧を得て前段に供給する。また、初段のカソードには定電流ダイオードを使うことで、出力段のバイアス回路と共用し大掛かりなマイナス電源を用いないで済む回路とした。



  2A3を個別にAC点火する

2A3EHのフィラメント点火方法だが、4本の出力管のフィラメントを個別のフィラメント巻線でAC点火することにした。MX−280だけだと2A3用のフィラメント巻線は2組しかないので、別に2.5V2.5Aを2組持つ小型のフィラメント用電源トランスを組み込むことにした。通常の片ch2本まとめてのAC点火に比べ、ずっとフィラメントのハムはキャンセルしやすいので、しっかりしたDC点火なみのSN比が期待できる。



実際に出来てみないと何ともいえないが、場合によって音を聴きながら3〜6dB程度のごく軽微なNFBをかけるつもり。










  280Vのタップを利用してのマイナス電源

MX-280の280Vのタップが余っているので、これを用いれば定電流ダイオード、ツェナーダイオードを用いなくてもマイナス電源を組むことができる。上の回路より若干混みいっているが、複雑すぎるということはない。ただし、280Vのタップをマイナス電源に使ってしまうので、出力段の+B電圧を下げて本来の2A3の規格内で動作させようとすることはできなくなる。上の回路では、280Vのタップが空いているので、整流管のプレートを320Vから280Vに繋ぎ替えるだけで簡単に変更可能なのだが・・・。上と下、どちらが勝るのかは両方やってみないことにはわからない。








シャーシーの穴あけが面倒なのが大嫌いだし、不器用なため綺麗に仕上がらないこともあって、既成のシャーシーを買ってきたのですが、ここまで来るのにもかなり面倒だった。キットだったらずっと簡単。


チョークトランスの取り付けで現在新品で入手できるものの中にぴったりの穴の機種がない(だからシャーシー自体、とても安く売られていた)ので、取り付け金具を自作したこと、当初買ってきたヒューズホルダーの大きさが長すぎて取り付け位置が電源トランスに近接しすぎてしまい、もっと短いタイプのヒューズホルダーでないと電源トランスのタップに近づきすぎて使用できないことがわかり買いなおしたり、2A3のヒータートランスの背が高く寝かせないとシャーシー内に収まらないことが取り付けの段階になって気が付いて、急遽、トランスを横向きに寝かせて設置するためのアダプターをL型アルミで製作し、何とか内部に収まるようになった。

オーディオ専科のおにいちゃんの話だと、上記の回路図の中で、定電流ダイオード、ツェナーダイオードを用いない方法のほうが音が良くなる可能性が高いということなのでこちらを採用。しかし、マイナス電源の電圧がもっと低くでたので(単純に計算間違い)、バイアス回路やドライバー段と初段の間のデカップリング抵抗は大きく定数変更を余儀なくされた。



  2004年11月  ついに音が出るようになった!



まだNFはかけておらず、その前にCRの定数変更など修正しなければいけない部分もあるが、一応音が出る状態になった。真空管を含め全てのパーツがエージングされていないので音が硬くデリカシーがない音だが、それでも300Bシングルよりはスケールの大きな表現をして、立ち上がりが早くキレの良い音がするので、これからの修正変更やNFをかけたあとどうなるかが楽しみ。

交流点火だが、2A3のフィラメントを個別の巻線を使って点火したために、ハムバランサーを回していくと全くハム音がしないポイントがある。無帰還の状態でも、スターリングを使う場合にはハムは気にならず全くSNは問題ない。NFをかければさらにSNは良くなるのでとても静かなアンプになる。

(*完成後、最終的にNFB3dBの状態で残留雑音Lch0.32mV/Rch0.36mVまで減らすことができました。アルテック604−8Gのような100dB・W/m位の高能率なピーカーを接続しても、トィーターに耳を近づけてやっと聴こえる程度。)


ハラワタの公開。実体配線図も書かず、回路図から直接配線したので汚いです。まだまだ修行不足。



  2004年12月、音の調整完了、完成!

今回、私が製作した2A3プッシュプルでは、信号が通る音質変化が大きいところには、音質を考慮した銘柄の抵抗を使っている。2A3のヒーターの22Ωはアーレンブラッドレー、グリッドリークはデール、2A3のカソードの1Ωもデール、ドライバー段のプレート抵抗、カソード抵抗は、NATO軍ご用達だったウェルウィンのホウロウ抵抗(ビシェイと同じように引き締まって分解能が高く高域までスッキリ伸びる音がする)など。ただし、音質変化の少ないバイアス回路や+B電源のデカップリングの抵抗は、安い数十円の普通の酸化金属皮膜抵抗を使っている。


エージングをしながら、カップリングコンデンサ、NFの吟味をした。このアンプはNFBを3dB程度かければ充分だと感じた。この程度のNFBでも、音の締まり、音のキレが良くなるのがわかる。もっとNFBを深くし6dB以上にすると音の勢いが殺がれる感じがしたので、この程度となった。位相補正のコンデンサは無くても十分安定だと思うので省いた。7.5KのNF抵抗は、ウェルウィンの無誘導巻線抵抗、100Ωはデール、カップリングコンデンサは上のハラワタ写真にある東和電機の普通グレードの黄色いフィルムコンからERO KT1800 0.22uFに変更した。これらの最終調整、部品の吟味によって荒さのない、しなやかさを持った好みの音質になった。


このアンプは、いわゆる従来の2A3のように中低域が分厚く濃厚な音とは違う。もっとスッキリと下から上まで伸びて音離れの良い、真空管アンプとしては明晰な音がするものとなった。

(電源は左右共通なのにもかかわらず、可聴帯域内でクロストークは左右とも-70dB以下であった。これは、ドライバー段までが差動増幅回路であるため。)

出力   0.67V入力時   16W 

周波数特性(8Ω負荷 1V出力時)  
高域                 低域
-1dB    54KHz        18Hzまでフラット
-3dB    85KHz
-6dB   126KHz


  最終的に完成させた状態の回路







                                                                    
                                                                   今回のアンプに使用したこのコンデンサは、まともに買えばこれだけで¥6300もする高級部品だが、クラシックコンポーネンツで2A3EHを買ったときに小さな凹みキズがあるので売り物にならないからという理由でタダで頂いたもの。東一のT-CAP/R メタライズドフィルム500V47uF+47uFという型番。

こんな良い部品を使ったのに、このアンプの総コストが10万ちょっとで済んだのは、安く出ていたシャーシを使い、もらい物のコンデンサを使ったため。クラシックコンポーネンツのおじちゃん、有難う!しっかり使わせてもらいました。感謝!










  2010年2月 オリジナル2A3を挿しリニューアル



定電圧電源を採用した300Bプッシュプルが完成したために、似た傾向の音質の2A3プッシュプルは全く使わない状態になってしまっていました。そこで、出力が犠牲になっても300Bとは違った傾向の音質で使い道のあるものにしようといろいろむさぼってみました。



変更点

チョークをタンゴ10H180mAから春日5H250mAに変更(ロシア2A3EHや中国製2A3Cなら1本あたり50mAの電流を流すことも可能になった。)

2A3を1950年代製造のカナダ・ウエスティングハウス製に変更し、今までの高すぎた2A3のプレート電圧を300Vに引き下げ、電流を42mAにした。出力は10W程度と2/3以下になった。

ドライバー段を変更、6414にもっと電流を流す(2本で約15mA)。6414のプレート抵抗はDALE RS-5 20K、カソード抵抗はOHMITE 10W 4KΩに交換。カップリングコンデンサもオイルコンに交換。

NFBを約5dBと深くし、位相補正を入れた。

クリーミーでしなやかな昔の2A3の音質になり、300Bプッシュプルアンプとは音質傾向が異なるものになって、これはこれで存在価値のあるものになったのです。300BPPアンプと同質の音を追求しても、OPTのグレード差がネックになって太刀打ちできません。XE-60とFX-40では相当な音質の品位の差みたいなものがあって、これが超えられない壁になります。



内部




回路





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