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15KY8A CSPP(クロスシャントプッシュプル)アンプ






シャシーはノグチ お助けシャーシーを使い、自分で穴あけをしスプレーしてお安く仕上げました。


15KY8Aという真空管とは?

2010年の春、15KY8Aというアメリカ製のテレビ用真空管を秋葉原で10本¥3000で見つけました。どのような真空管かというと、下の写真のように、通常のMT管である6BQ5よりも太くNovar-9ピンソケットで最大プレート損失12Wのビーム管と6SL7類似のハイミュー三極管が1ユニット封入された複合管です。ヒーター規格だけが違う6KY8Aの特性はこのサイトで見ることが出来ます。http://www.nj7p.org/Tube4.php?tube=6KY8A

 
               6BQ5                 15KY8A

写真は大きさの比較のため同等の規模である最大プレート損失12Wの6BQ5/EL84を横に並べて撮っています。

近頃は秋葉原に行っても数年前まではリーズナブルな価格であったものが高価になってしまったり見かけなくなってしまった球が多くなっています。1997年頃、パソコン通信ニフティサーブでの音響我楽多(ガラクタ)箱(オーディオ談話室)で私の駄球協会番号であった6EM7も、当時は数百円で買えたのに現在ではペア¥5000とかなり高価になってしまい、とても駄球とは言えなくなってしまいました。

ところが、そんな時代でも探せばあるものです。真空管本体よりソケットの方が高い格安球で、6BM8や6GW8族と同様に単管でシングルアンプが組めるのでは?と衝動買いしてしまいました。ちなみに、同じようなことを考える人はいるもので、すでに長島勝氏がラジオ技術誌2010年8月号で、この真空管を使ったシングルアンプを発表されています。



CSPP用の出力トランスをタダで貰ってしまった!

15KY8Aを買った動機は単管でシングルアンプが組める、つまりこの球2本だけでシングルステレオアンプが作れるからだったのですが、ARITO@伊吹山麓さんから、CSPP(クロスシャントプッシュプル)用の出力トランスをタダであげるから、CSPPアンプを作ってみませんか?とお誘いを受けたのがこのアンプを作ったきっかけです。
 
そのトランスはこれ。自分で塗装したのが下の写真です。
 

この出力トランスは、ARITO@伊吹山麓さんが設計し染谷電子が発売しているASTR−20の最終試作トランスで、ケースは異なるものの市販されているASTR−20と全く同じ仕様なのだそうで、CSPP専用のトランスです。CSPP(クロスシャントプッシュプル)というのは、かのマッキントッシュの管球アンプであるMC-275、MC-240、MC-225なども採用していたものですが、特殊な出力トランスが必要になるために、私は今までこの回路方式のアンプを製作したことがありませんでした。回路技術的な部分とその音質的な興味もあって、かなりワクワクしながら製作しました。



設計製作コンセプトと回路

せっかく格安の真空管を使い、タダで貰った出力トランスを使うのだから、製作コストは安く、なるべく特殊な部品を使わないで、前段の真空管も格安球を使うことにしました。





前段の真空管は松下製4EJ7、これも以前に1本¥100で買ってあったもの。電源トランスは特注品を使わず、汎用品であるノグチPMC-190Mを使いました。ヒーターの点火方法は様々考えましたが、PMC-190Mの0-5V、0-6.3V、2.5-6.3Vを直列にして5+6.3+3.8=15.1Vとして15KY8Aを点火し、4EJ7は残った0-2.5-6.3Vの巻線の2.5-6.3Vを使って3.8Vで点火するつもりで製作を開始しました。実際に組上げた後で、15KY8Aのヒーター電圧が高くなりすぎていたので0-5V、0-6.3V、0-2.5Vの直列接続に変更し、実測で約14.5Vとしています。4EJ7は実測で約4Vとなりました。また、このアンプでは採用しませんでしたが、4EJ7と15KY8Aのヒーター電流は共に0.45Aなので、おのおのを直列にして点火する方法も考えられます。工夫すれば、ヒーター電圧の問題は何とかクリアできるものです。尚、本回路では、15KY8Aには120〜150V程度のヒーターバイアスが必須です。

前段を4EJ7とし15KY8Aのハイミュー三極部をプレート負荷として差動増幅回路での二段アンプとしました。前段部には400V以上の高電圧の供給が必要ですが、PMC-190Mの200Vタップを倍電圧整流して得ています。また、4EJ7のヒーター電源と共用する0-6.3Vを倍電圧整流して差動回路のマイナス電源と出力管のDCバランス用電源を供給します。出力段に少し大げさなDCバランス回路を付けた理由は、15KY8Aがオーディオ用ではなく特性がバラついている可能性が高く、そのような真空管を挿しても問題なく使えるようにしたかったからです。

出力段は自己バイアスとなっています。スクリーン電圧を下げるために1N5383B(130V/5W)というツェナーダイオードを使いました。この部品だけが特殊といえば特殊なもので、RSコンポーネンツから通販で取り寄せました。あとはごく普通の一般品です。


電源部は、出力段に左右別に2個のチョークコイルを用いるだけでなく前段にもチョークを使いました。出力段のチョーク2個の採用は左右別電源にすることでクロストーク特性を良くすることが理由ですが、前段にチョークを使った理由は音質を考えてのもので、無くても充分にリップル除去は可能なのですが、私の自作したぺるけ差動プリでのチョークを採用したことによる音質変化の経験や、古くはクォードII型パワーアンプにおいて前段部にかなりしっかりしたチョークコイルを採用しているのを見るにつけ、抵抗のみで済まさずに多少のコストアップがあっても採用すべきであると考えました。また、これら3個のチョークはリードの小型アルミボックスに収納し、シャーシ上部に設置しました。




内部
 




特性と音質

最大出力     約11W  1.1V入力時  (NFB 約6dB)

周波数特性    高域 -3dB  90KHz  -6dB 145KHz
            低域 -3dB   10Hz    (1W出力時)

低域が良くしまり歯切れが良く高域も素直で爽やかな感じがします。やや押し出しのある感じであるが全体的に高品位で癖が無いと思いました。スピーカーからの音離れが良く、タンノイスターリングクラスのスピーカーを鳴らすなら、全く不満はなくメインのアンプとして充分な性能を持ちます。機会があれば、もっと大型の出力トランスを使って再度CSPPのアンプに挑戦してみたいです。

2011年1月10日(月)に開催された、横浜市青葉区にある(有)ソフトンでの自作アンプ試聴会に参加してきました。参加された皆さんがベテランばかりで、出品アンプも力作揃いなので、いつも勉強になります。

私は、この15KY8A CSPPアンプをエントリーしましたが、他にもCSPPアンプがエントリーされており、試聴の結果、CSPPアンプに共通する音質みたいなものを確認しました。CSPPアンプは、回路的にプッシュプルで磁気合成を必要としませんし、シングルアンプを2段重ねたのと等価とみなせるもので、普通のプッシュプルアンプとは大きく違います。

小音量で音崩れがないのはまさにシングルアンプ譲りで、音の前後感が出しやすいのは差動アンプと共通しています。そしてシングルアンプや差動アンプにない押し出しのある力感も出せることが最大の長所だと思います。また、必ずしも出力管に裸特性の良いものを必要とはしません。なぜ、マッキントッシュの管球アンプが、この回路にこだわって設計されていたのかとか、何十年間も音質的評価が高く人気があるかが、少しわかった気がしました。

ただし、欠点もあります。回路構成上50%もの多大なKNFがかかるので、ダンピングファクターが大きくなるのと引き換えに、高いドライブ電圧が必要になります。ドライブ電圧は、出力が大きければ大きいほど必要になるので、大出力であればあるほど、設計が難しくなります。また、専用の特殊な出力トランスが必要です。

自作する場合、アマチュアが手がけやすい簡便な二段アンプにしようと思うと、10W〜15W程度のアンプであっても前段に500Vもの高電圧をかけることになり、出力段と前段の電源部は別立てにせざるを得ず、複雑化は避けられません。また、大出力を狙うアンプだと、強力なドライバー管を適切に動作させ、ブートストラップなどを使ってドライブ電圧を水増しするようなテクニックも必要となるなど、初心者にはかなり難しいものになると思います。



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